僕もよく「経営者が経済について語るのは、経理係に同じ金の事だからと経営を語らせるようなものだ」と言っていますが、経済学者と経営者、あるいは経済アナリストのどちらが上か?といわれると職業としては「貴賤がない」というのが答えにはなります。
「経済学と経営学」始まりは似ているが
特に現代では「実務家としての経営者」と「経済学者」には大きな乖離が存在します。
歴史的には、経営学も当初は「ブルジョワ(エリート)のモノ」でした。
経営学の始まりは「フレデリック・テイラー」で、「業務最適化」を生み出しました。
テイラー以前はみんな適当に日当をもらって、一日働いて、その結果がすべてという経営版「勘・根性・度胸(経営KKD!!)」だったのが、モニタリングや標準化によって業務の最適化を行いました。
有名な著作は「科学的管理法の原理」です。
最終的にはテイラー先生は「最適なスコップの大きさ(石炭の生産ラインだったのです)」まで提言して生産性を改善しています。
(現場の人たちに任せると無意味に大きなスコップを使う事でトータルの生産性(1日の生産量)が逆に減ってしまっていたそうです、「ビジネスに無理は禁物」というのはこの時代からの真理です)
このように「経営管理の概念」を発明することで生産性を改善したわけですから、この時代の経営学者は「ブルジョワ(エリート)」でも大いに役立つ存在だったわけです。
経営学の始祖はその100年ほど前の「アダム・スミス」で「国富論」で交易によるWin=Winの関係(比較優位)などを発見して、大いに生産性を向上させました。
このように、経営学と経済学は誕生した当初はさほど異なるものではなかったのです。
(ちなみにテイラーの当時の肩書は「エンジニア」、アダム・スミスはどちらかといえば「教育・倫理学者(グラスゴー大学の元講師)」です、当時は経営学も経済学もなかった(!)からです)
経営できる経済学者は少ない
さて、現代においてはやや難しい事情があります。
特に日本では。
海外ではケインズをはじめとした「ビジネス的にも成功する経済学者」もいますし、経営学者も何のビジネスもしていない人は少数派ですが、日本では異なります。
現代日本においては「実務家と学者」が大きく乖離しているのです。
(博士号をとると就職がないという不思議な状態でアカデミズム(学者)の世界は現実から浮遊してしまっています)
実際問題、「経営」にしろ、多くの経済アナリストの主戦場「商品(有価証券)市場分析」などでは、「経済学のフレームワークに入っている意外の要素(パラメーター)」が多数存在するのです。
必要な知識が違うから専門家は強い!!
現代のように「深化した社会」においては、ラーメン屋ならラーメン屋の悩みがありますし、物流業なら物流業の悩みがあり、そこの比重も重いのです。
現代となっては一応「一般教養」になっている経済学だけで経営に成功する時代ではないのです。
(僕が語っているレベルの経済学では、下でも話しますがビジネスはもちろん、投資で勝つことも難しいのが実態です……だいたい「あ、こんな情報もあったのか!!」という失敗の連続です、常識は成功を約束しません)
経営者や経理担当が経済学者の代わりにならないように、経済学者も経理の代わりにはならないということですね。
「上流・下流」という言い方はありますが、「上位・下位」ではないわけで、それぞれの階層でそれぞれに別々の知識・能力が必要な時代です、専門家(プロ)はやっぱりすごい!!
では「経済学者」と「経済アナリスト」ではどうかというとこれも似たような違いがあります。
業務の内容は似ているところもあるのですが、経済学者は主に「政策分野の効果測定」やそれらの関連統計に詳しく、経済アナリストは主に「自分の扱っている商材(投資)」の情報に詳しくなっていくわけです。
……ですので「スゴイ経営者なら経済も建て直せるに違いない(東大出のエリートなら……)」という抱きがちなイメージも明確に否定する事が必要です。
IT企業が上手く経営できるから、官僚答弁が書けるからといって、必ずしも飲食店を上手く経営できるわけがないのと同じく、経営者が「場違い」な経済の現場を上手く仕切ることができるわけではないのです。
「マクロ経済の現場」は工場や、小売店にはなく、どちらかといえば中央銀行間のミーティングや貨幣発行量と統計上数値(国民総生産)との乖離の埋め方、さらにはそれを「市場にどう伝えるか?」の方にあるのです。
……ちなみにですが「伝え方」については、近年の研究では中央銀行の発表の意味はアメリカでは「高校生程度の知識で読解可能」になってきているということです、昔は「霞が関文学(東大話法)」のようなことを言うほうが良いとされていたのが「それでは市場をより混乱させる、わかりやすく説明すべきだ」と考えが変わってきたからです。
このように専門家が(テイラーの話で上げたように、スコップを使う工夫が)間違った常識に従って、間違ったことを繰り返すことはあります、専門家の述べることでも根拠が不明瞭(言い方の単純さや力強さではないですよ)な場合は疑う事も必要です、もっと良い解決策が出てくることもあります(※)。
※ケインズ以前の経済学では「不況は放っておいてとことんまで調整が進めば自動的に解消される」と自由放任主義をとっていました、それは間違った考えではありませんが問題は「不況(原因になる需給バランスの崩壊)」は放任すると回復するまで100年を超えるケースもありました、「自然に任せればいずれ回復する」のが正しくても、それでは一般市民が困るわけです(当時の学者の属する上流階級は良いですが「不況前後のギャップ(下の絵でいえば40%に引っ掛かる人)」は失職や賃下げに遭うわけです)。
株価の回復を基準にとると「大恐慌は25年、リーマンショックでも3年」でした、自由のために市民が25年苦しむより「減った需要を国が埋めることで」国全体が受けるダメージも小さく短くなることを指摘したのがケインズでした(上のスライドの抜粋元「大学で教わった経済学の教科書には何が書いてあったのか」はこちら)
「悲劇を防ぐ」常識としての考え方を身に着けよう
このサイトで提供しているレベルの経済学の知識は「基本的な傾向」を掴む助けにはなりますが、どちらかというと「常識」ですのでそれで大儲けができる類のものではありません。
しかし「常識」がなかった事で日本は「不況になってから、さらに金融引き締めを行って不景気を長期化させ、デフレを固定化させる」という愚行で大きな損害を受けました。
「悲劇を防ぎ」、良い方向に「常識を打ち破る」ためには、常識にとらわれてはならないのですが、「常識を疑うに足る常識」は必要なのです、そして経済学はその類の知識です。
下の本も「最低限で数式無し」で経済学の流れを知ることができる良書です。
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